スカーとか呼ばれている傷の男に、悔しいけどコテンパンにされた。
次は――次に会ったときには、絶対に負けない。
そのためにも、オレとアルは故郷であるリゼンブールを訪れていた。
奴に破壊された機械鎧とアルの体を直すために。
――そんなにヒマなら、母さんの墓参りに行っといでよ ――墓参りか……
――直ったら、すぐ中央に行くんだろ? だったらヒマなうちにさ ――そーだな……ちょこっと行って来るか……
そして母さんの眠る場所まで来たものの――やっぱり、母さんにかける言葉は見つからなかった。 一緒について来た犬のデンから花を受け取り、母さんの墓前に供える。
りゼンブールを離れてから数えるほどしか会いに来てないけど、いつもそうだ。 心の中にいろんな想いがグルグルするのに、
いっぱいになって心を破りそうなくらい締め付けるのに、 それは言葉にならない。
結局居たたまれなくなって、オレはその場所を離れた。
気がつくとオレは、オレたちの家だった場所に立っていた。
考え事しながら歩いてるうちに、自然と脚が向くなんてな……。
目の前にあるのは、焼け落ちた建造物の燃え残りだけ――。 思えば母さんを亡くしたあの日から――オレたちはいろんなものを失って来たんだ……。
優しい母さん
母さんと、オレたち兄弟の住んだ思い出が詰まった家 アルの体
オレの左足と右腕
元に戻るために探している賢者の石。
探しても探しても、そこにはとどかない。
あきらめたらそこで終わりなんだ――って、頭ではわかっていても……やっぱり、届くかと思っては遠ざかる日々が続くと、心は歩みを緩めてしまいそうになる。
元気のない俺を気遣ってか、側にいたデンが心配そうにこちらを見上げている。 本当に優しいやつだよな、コイツ。
「……帰るか。みんなが待ってる」
――数日後。
機械鎧もアルの体も直り、オレたちは中央へ向けてリーズオートを発つことにした。 ピナコばっちゃんとデンが見送ってくれる。
「ボウズども。たまにはご飯食べにかえっておいでよ」
ピナコばっちゃんの言葉に、アルは素直にうなずいた。
「そのうち、また」 「こんな山奥にメシ食うだけに来いってか」
ここまで来るのにどれだけの時間がかかると思ってるんだか。
「ふっふ……」 「……? なんだよ」
急に笑いだした少佐をオレは振り返った。 少佐は、いかつい顔に優しい笑顔を浮かべていた。
「迎えてくれる家族……帰るべき場所があるというのは、幸せな事だな」
「へっ。オレたちゃ、旅から旅への根無し草だよ」
そう、返事をしたけど……少佐の言葉は、オレの心にほんのりと残った。
「エド! アル!」
突然、上から降ってきた声。
見上げると、徹夜明けで爆睡しているはずのウィンリィが二階のテラスからこちらを見ていた。
「いってらっさい」
たった一言。 そのたった一言を言うために、徹夜明けであんな超寝ぼけた顔でわざわざ起きてきたのか、アイツ。 ほんとに、しょうがねぇ奴……。
「おう!」
オレはウィンリィに背を向け歩き出しながら、短い返事を返した。
そう。少佐が言ったようにオレたちには帰る場所がある。 母さんはいなくなってしまったけど、オレたちが住んでた家はなくなったけど。
代わりになってくれる家族と、場所がある。
そうだ。 失くしてしまったものはたくさんあるけど、手に入れたものだってあるじゃないか。
アルの体と、オレのからだの一部はなくなったけど、より強い兄弟の絆を手に入れた。 軍は嫌いだけど、軍部にはいい奴らもたくさんいる。
「どうしたの? ずいぶん嬉しそうだね」
隣にいるアルが言う。
オレはアルを見上げて笑いかけた。
「次に帰ってきたときには、二人で母さんの墓参りに行こうな」
「……うん!」
今度は、母さんに軍部の奴らの話でも聞かせてやろう。
楽しい奴ばっかりだから、きっと母さんも喜んでくれるよな。
親しかった人との別れがあれば、新しい人との出会いもある。 失ったものもあれば、得たものもある。
等価交換――失った分だけ、手に入れないと割に合わないよな。
オレたちは絶対にあきらめない。 たとえ疲れてその歩みが遅くなろうとも、絶対に前に進むことをやめたりしない。
賢者の石を手に入れて、二人で元の体に戻るその日まで――。
■あとがき■ 初めて書いたSSです。
いつもは短く書こうとしても長くなってしまいがちな私なのですが、今回は短くまとまりました! 本編のストーリーをベースに、エドの心理を描くような感じにしてみたのですが……。でも終わり方微妙? ごめんなさいセンス無いです(泣)
2004.10.1
錬成
|